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コミュニケーションと支援の配慮

知的障害のある人との面接・意向確認は、相談支援の中核業務でありながら、支援者側の話し方・聞き方次第で結果が大きく変わる。「本人に分かる形で伝える」「本人の本当の意向を受け取る」ための具体的な工夫と、陥りやすい落とし穴を整理する。

伝え方の基本

工夫具体例
平易な言葉専門用語・役所言葉を日常語に置き換える(「支給決定」→「市がサービスを使っていいと決めること」)
一文を短く一つの文に一つの内容。接続詞でつなげて長くしない
抽象語・比喩・二重否定を避ける「なるべく早めに」→「金曜日までに」。「行かないわけではない」→「行きます」
具体物・視覚的手がかり写真・絵・実物・カレンダー・スケジュール表を見せながら話す
一度に伝える量を絞る大事なことは1回に1〜2点。繰り返し・複数回に分けて伝える
本人のペースを待つ質問のあとの沈黙を恐れない。考える時間・言葉にする時間を保障する
  • 理解の確認は「わかりましたか?」では機能しない(「はい」と答えやすい)。内容を本人の言葉で話してもらう、実際の場面でやってもらう、選択肢で聞き直すなどで確かめる。

抽象概念の伝え方 — 時間・金額・体調

抽象概念は知的障害のある人が最もつまずきやすい領域であり、生活トラブル(遅刻・浪費・体調悪化の見逃し)の背景になりやすい。

概念伝え方・確認の工夫
時間「あとで」「そのうち」を使わず、時計・カレンダーで特定する。「長い針が6になったら」「この日にち(指さし)」。見通しはスケジュール表・写真つき手順書で示す
金額数字だけでなく実物の貨幣・商品の写真と対応させる。「高い・安い」ではなく「お財布の千円で買える・買えない」。1週間ごとの小分け管理など構造で支える
体調「調子はどう?」では答えにくい。顔の絵カード・数値スケール・具体的な部位を指さす方法。食欲・睡眠・行動の変化など周囲が観察できるサインも併用する

意向確認の落とし穴 — 誘導と迎合

  • アクイエセンス(迎合傾向): 質問に対して内容にかかわらず「はい」と答える傾向。相手に合わせて肯定することで場を切り抜けてきた経験の積み重ねから生じる。権威のある相手(支援者・調査員)に対して強く出やすい。
  • 誘導: 支援者の問い方(「○○がいいよね?」)、選択肢の提示順(最後に言われたものを選びやすい)、表情や声のトーンが、本人の回答を方向づけてしまう。

対策の例:

  • 「はい/いいえ」で答える質問(閉じた質問)に頼らず、開かれた質問と選択肢の提示を組み合わせる(→質問技法)。
  • 同じことを別の聞き方・別の日・別の場面で聞き、答えの一貫性を見る。
  • 選択肢の順番を変えて聞き直す。実物・体験(見学・体験利用)とセットで選んでもらう。
  • 家族・支援者の同席が本人の回答を変えることがある。本人だけと話す時間をつくる。

「はい」を意向と即断しない

面接記録に「本人も了承」と書かれた「はい」が、実は迎合だった——というのは意向確認の最も典型的な失敗である。答えの言葉だけでなく、表情・体の向き・その後の行動(実際に通えているか)まで含めて意向を読み取る。言行の不一致は「うそ」ではなく、意向がまだ言葉になっていないサインである。

本人向け資料の合理的配慮

  • 契約書・重要事項説明書・計画案など本人が署名するものは、本人が理解できる形にして説明する義務が事業者側にある(合理的配慮 →障害者差別解消法と合理的配慮)。
  • 具体的な工夫: ルビ(ふりがな)、短い文と大きな文字、写真・イラストの併用、1ページの情報量を減らす、口頭での逐条説明、持ち帰って家族・支援者と確認する時間の保障。
  • 「わかりやすい版」の資料づくりは手間だが、一度作れば事業所の資産になる。計画書の本人向け説明資料(顔写真・イラスト入り)を用意している事業所もある。

意思決定支援との接続

  • ここまでの配慮はすべて意思決定支援の実践そのものである。意思決定支援は「本人が決められないときに誰かが代わりに決める仕組み」ではなく、本人が自分で決められるよう環境と情報を整えること(意思形成・意思表明の支援)が先にある。
  • 経験がないことは選べない。「グループホームは嫌」が、実際を知らないゆえの答えであることは多い。体験の機会を計画に組み込むことは意思形成支援の中核である。
  • それでも読み取りが難しい重度の人については、日常の様子から選好を推定する根拠(何に笑顔になるか・何を避けるか)を関係者で持ち寄り、記録に残す。

相談支援での活用

  • アセスメント面接は、この配慮の実践の場そのもの(→障害特性に応じた面接の配慮)。面接環境(静かな場所・時間帯・同席者)の設定から始まる。
  • サービス担当者会議で本人が「お客さん」にならない工夫を。本人に分かる資料・本人が話す時間・本人の席の位置。会議の場で初めて聞く話がないよう事前に本人と打ち合わせる。
  • モニタリングでは「変わりないです」の先を聞く。生活の具体的場面(朝ごはん・仕事・帰り道)を一緒になぞると、言葉にならなかった変化が出てくる。

相談支援専門員の視点

  • 分かりやすい説明は「子ども扱い」とは違う。成人として遇しつつ、情報の形だけを変える。呼称(さん付け)・話題(年齢相応)・決定権の所在で大人としての尊重を示す。
  • 支援者が「通訳」を続けると、本人が直接やりとりする力と機会を奪うことがある。本人と相手が直接やりとりできる場面を意図的に残す。
  • 迎合や言行不一致を「本人の問題」とせず、問いの出し方の問題として自分の面接を振り返る。面接技術は傾聴の技法非言語コミュニケーションも参照。

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