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意思決定支援
厚生労働省「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(平成29年・2017年)は、本人の意思決定を支援の出発点に置くための実務枠組みを示したものである。「本人に決める力がないから周囲が決める」のではなく、「決められるように支援を尽くす」ことを支援者側の義務として構造化した点に意義がある。
ガイドラインの位置づけ
- 障害者総合支援法・障害者権利条約(→障害者権利条約)の理念を実務に落とすための指針。サービス提供事業者・相談支援専門員が主な対象。
- 相談支援では、サービス等利用計画の作成・モニタリング・サービス担当者会議のすべてが意思決定支援の場面にあたる。
3つの支援局面
| 局面 | 内容 | 支援の例 |
|---|---|---|
| 意思形成支援 | 本人が意思を形づくる過程を支える | わかりやすい情報提供、体験利用の機会、選択肢の提示、経験の幅を広げる |
| 意思表明支援 | 形成された意思を表に出すことを支える | 表出手段の工夫(絵カード・筆談・指さし等)、安心して話せる場・関係、時間をかけて聴く |
| 意思実現支援 | 表明された意思を生活で実現することを支える | サービス調整、環境調整、関係者への働きかけ、リスクを減らしながら挑戦を支える |
3局面は一方通行ではない。体験(実現)してみて意思が変わるのは自然なことであり、形成→表明→実現→再形成の循環として支える。
基本原則
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| 本人中心 | 意思決定の主体は本人。本人の意思確認を最大限行うことが全ての出発点 |
| 能力を固定的に判断しない | 「できる/できない」の二分ではなく、説明の仕方・環境・体調で変わる前提で工夫を尽くす |
| 意思の推定 | 意思の確認が困難な場合も、過去の意向・生活歴・価値観・日頃の表情や行動から本人の意思を推定する努力を先行させる |
| 最善の利益は最終手段 | 意思の確認も推定も困難な場合に限り、関係者による最善の利益の検討に進む |
| リスクの引き受け | 本人の選択に一定のリスクがあっても、直ちに周囲の判断で覆さず、リスクを減らす支援を検討する |
「最善の利益」判断が許される場面の限定性
最善の利益による判断は、①意思確認のあらゆる工夫を尽くし、②意思推定も尽くしても、なお本人の意思が明らかにならない場合の最後の手段である。しかもその場合に、
- 単独の支援者が決めるのではなく、関係者による会議(意思決定支援会議) で検討する
- 複数の選択肢を比較し、本人にとっての利益・不利益を挙げて検討する
- 本人の自由の制限が最も少ない方法を選ぶ
- 決定後も本人の反応を観察し、意思の表れがあれば決定を見直す
という手順が求められる。「本人は分からないから」と最初から最善の利益判断に飛ぶことは、ガイドラインの想定する運用ではない。
意思決定支援会議
- サービス担当者会議・個別支援会議と一体的に開催してよいとされる。本人参加が原則。
- 本人の意思確認の経過(誰が・何を・どう提示し・本人がどう反応したか)を共有し、意思の推定・最善の利益の検討をプロセスとして記録に残す。
- 家族・後見人・事業所・行政など立場の異なる関係者の見立てのずれを、本人の意思を軸に調整する場でもある。
日常実務への落とし込み
| 場面 | 意思決定支援の工夫 |
|---|---|
| 通所先の選択 | 資料説明だけで決めない。体験利用を複数箇所、時間帯や活動内容を変えて設定し、体験後の表情・行動の変化も含めて意思を読み取る |
| 選択肢の提示 | 一度に多数並べない。写真・実物・見学など本人が比較できる形にする。「どちらがいい?」の二択から始める、選ばない自由も保障する |
| 面接での確認 | クローズド/オープンの質問を使い分け(→質問技法)、誘導になっていないか言い回しを点検する |
| 生活上の小さな選択 | 大きな決定の前に、服・食事・余暇など日常の選択経験を積める環境を事業所と作る。意思決定は経験で育つ |
| 記録 | 結論だけでなく提示の仕方と本人の反応を書く。本人の言葉はかぎかっこで残す(→記録の書き方) |
「意思がない」のではなく「読み取れていない」と考える
言語表出が少ない人でも、表情・視線・体の向き・行動の変化は意思の表れでありうる。日常を知る家族・支援員からの情報収集と、場面を変えた複数回の確認が、面接室での一回の聞き取りより多くを教えてくれる。障害特性に応じた配慮は障害特性に応じた面接の配慮を参照。
相談支援専門員の視点
- 意思決定支援は「特別なケースの手続き」ではなく、すべての計画作成・モニタリングの土台。「本人の希望する生活」欄が定型文になっていないかが最初の点検ポイント。
- 家族の意向と本人の意思が対立するとき、家族を敵にせず、家族の不安に応えながら本人の意思を軸に据える調整が求められる。発言者を明示した記録が調整の土台になる。
- 成年後見人が付いているケースでも意思決定支援は不要にならない(→成年後見制度)。後見人を意思決定支援のチームの一員として巻き込む。
関連ページ
制度・指針の確認
ガイドラインや関連制度の内容は改正・改訂されることがある。実務では最新の法令・厚生労働省資料・自治体資料で確認すること。