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障害者虐待防止法

障害者虐待防止法(障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律。2012年施行)は、虐待の定義・通報義務・対応の仕組み・事業所の防止体制を定めた法律である。相談支援専門員は家庭と事業所の両方の内側を見る数少ない職種であり、一次発見者として法の仕組みを正確に知っておく必要がある。

虐待の5類型

類型具体例
身体的虐待殴る・蹴る・つねる、無理やり食べ物を口に入れる、正当な理由のない身体拘束(縛る・閉じ込める・向精神薬の過剰投与)
性的虐待わいせつな行為をする・させる、裸にする、性的な言動、本人の前でわいせつな映像を流す
心理的虐待暴言・怒鳴る、侮辱する呼び方、子ども扱い、無視・拒絶的な対応、他の利用者と著しく差別的な扱い
放棄・放置(ネグレクト)食事・水分・入浴・排泄介助の放棄、劣悪な環境での放置、必要な福祉サービス・医療を受けさせない、同居人による虐待の放置
経済的虐待年金・賃金・手当の搾取、本人の同意なく財産・預貯金を使う、正当な理由なく生活に必要な金銭を渡さない・使わせない
  • 複数の類型が重なることが多い。また本人が「虐待されている」と認識していない・訴えないことは珍しくなく、本人の自覚や訴えは要件ではない
  • 高齢者(高齢者虐待防止法)・児童(児童虐待防止法)と対象が重なる場合は、年齢・場面に応じて適用関係を整理する。障害児の家庭での虐待は児童虐待防止法の枠組み(児童相談所)が対応する。

3つの虐待主体と通報先

虐待主体通報先その後の主な対応
養護者同居家族・親族など現に養護する者市町村(市町村虐待防止センター)市町村による事実確認・訪問調査、立入調査、分離保護(短期入所等の活用)、養護者支援
障害者福祉施設従事者等障害福祉サービス事業所・施設の職員市町村(市町村から都道府県へ報告)市町村・都道府県による事実確認、社会福祉法・総合支援法等に基づく指導・監査・処分、公表
使用者障害者を雇用する事業主・職場市町村または都道府県(都道府県から労働局へ報告)労働局による労働関係法令に基づく対応
  • どの主体でも入口の通報先は市町村でよい(使用者虐待は都道府県でも受け付ける)。「どこに言えばいいか」で迷って通報が遅れるのが最も避けたい事態。
  • 学校・保育所・医療機関での虐待はこの法律の通報義務の対象外だが、それぞれの管理者に防止措置が課されており、虐待に気づいた場合は設置者・行政への相談・通告など別ルートで対応する。

通報義務と守秘義務

  • 虐待を受けたと思われる障害者を発見した者には通報義務がある。確証は不要で、疑いの段階で通報してよい(通報の正しさを通報者が証明する必要はない)。
  • 通報は法律上の義務の履行であり、刑法の秘密漏示罪その他の守秘義務違反にはならないと法に明記されている。
  • 施設従事者等が自分の事業所の虐待を通報した場合、通報を理由とする解雇その他の不利益取り扱いは禁止されている。
  • 通報者が誰かは行政側にも守秘義務があり、みだりに明かされない。

通報後の流れ

  1. 通報受理: 市町村虐待防止センターが受け付け、緊急性を判断
  2. 事実確認: 訪問調査・関係機関からの情報収集。養護者虐待で生命・身体に重大な危険のおそれがあれば立入調査(必要時は警察の援助)も可能
  3. 対応方針の決定: コア会議・個別ケース会議で保護の要否・支援方針を決定
  4. 保護・支援: 必要に応じ短期入所等での一時保護・分離、面会制限、成年後見の市町村長申立て。同時に養護者への支援(介護負担の軽減・相談)も法の柱である
  5. 終結とその後の支援: 虐待の解消を確認し、再発防止の支援体制(サービス調整・見守り)へ移行

通報したら関係が全て切れるわけではなく、多くのケースは分離ではなく在宅のまま支援を強化する形で対応される。「通報=家族を罰する」ではなく「通報=行政を交えた支援の開始」と理解しておくと、支援者自身の心理的ハードルも下がる。

事業所に義務付けられた虐待防止措置

障害福祉サービス事業所には以下の措置が義務化されている(未実施は減算対象。→親ページ権利擁護と意思決定支援参照)。

  • 虐待防止委員会の設置(定期開催・結果の従業者への周知)
  • 従業者への研修の定期的な実施
  • 虐待防止責任者(担当者) の配置

相談支援事業所自身もこの義務の対象である。自事業所の委員会・研修が形骸化していないかは、他事業所を見る前に点検する。

身体拘束の禁止と例外3要件

  • サービス提供にあたっての身体拘束等は原則禁止。緊急やむを得ない場合に限り例外的に認められるが、次の3要件をすべて満たす必要がある。
要件内容
切迫性本人または他者の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高い
非代替性身体拘束以外に代替する方法がない
一時性行動制限が一時的である
  • 例外にあたる場合も、組織としての判断・本人家族への説明のうえ、態様・時間・心身の状況・やむを得ない理由の記録が義務付けられている。要件を満たさない身体拘束は身体的虐待にあたる。
  • 「安全のため」が常套句になっていないか、代替手段(環境調整・行動の背景のアセスメント→行動障害)を尽くしたかを問うのが支援者側の責務である。

「様子を見る」は選択肢にない

疑いの段階での通報が法の設計である。「関係が壊れる」「確信がない」「自分の思い過ごしかも」と抱え込むことが最も本人を危険にさらす。迷うケースはまず事業所内で共有し、基幹相談支援センター・市町村に相談する。地域の通報窓口・体制は地域情報を参照。

相談支援専門員の視点

  • モニタリング・訪問は虐待の早期発見の機会。あざ・急な痩せ・季節に合わない服装・金銭の不自然な動き・特定の人がいるときの表情の変化など、サインを意識して観察する。
  • 経済的虐待は「家族が本人の年金で生活している」形で常態化しやすく、家族も虐待の自覚がないことが多い。日常生活自立支援事業や成年後見(市町村長申立て)が保護の手段になる(→日常生活自立支援事業成年後見制度)。
  • 通報は個人ではなく事業所として動く。発見→事業所内共有→管理者から通報、の手順と記録の残し方を平時に事業所内で決めておく。
  • 養護者虐待の背景には介護負担・孤立・生活困窮があることが多い。虐待対応は家族への支援と一体であり、通報後も相談支援専門員は支援チームの一員として関わり続ける。

関連ページ

制度内容の確認

制度内容は改正されることがある。通報先・対応体制の詳細は最新の法令・自治体資料で確認すること。