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ソーシャルワークとは
相談支援専門員の業務はソーシャルワーク実践そのものである。このセクションでは、実務の土台となる価値・倫理・理論・技術を整理する。制度の運用(計画相談の手順等)は相談支援業務の全体像を参照。
グローバル定義(2014年)
2014年にIFSW(国際ソーシャルワーカー連盟)とIASSW(国際ソーシャルワーク学校連盟)が採択した「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」の要点は次のとおり。
- ソーシャルワークは実践に基づいた専門職であり学問である。
- 社会変革・社会開発・社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する。
- 社会正義・人権・集団的責任・多様性尊重を中核原理とする。
- ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、地域・民族固有の知を基盤とする。
- 生活課題に取り組み、ウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。
「個人を環境に適応させる」のではなく、人と環境の双方(および両者の接点)に働きかける点がソーシャルワークの固有性である。この視点は基盤となる理論・視点のシステム理論・生態学的視点につながる。
価値と原理
| 原理 | 意味 | 相談支援での現れ方 |
|---|---|---|
| 人権 | すべての人が生まれながらに持つ権利の尊重 | 意思決定支援・虐待防止・身体拘束廃止への関与 |
| 社会正義 | 差別・抑圧・排除への対抗、資源の公正な配分 | 制度の狭間の課題を協議会へ提起する |
| 多様性の尊重 | 障害・文化・性・価値観など違いの承認 | 本人の生活歴・価値観に沿った計画作成 |
| 集団的責任 | 人は相互に依存し、共同体として責任を負う | 地域資源の開発・インフォーマル支援の活用 |
倫理綱領の柱
日本ソーシャルワーカー連盟(JFSW)の「ソーシャルワーカーの倫理綱領」(2020年改定)は、グローバル定義を土台に次の4つの柱で責務を整理している。
| 柱 | 主な内容 |
|---|---|
| クライエントに対する倫理責任 | 自己決定の尊重、意思決定への支援、プライバシーと秘密保持、説明責任、権利擁護 |
| 組織・職場に対する倫理責任 | 倫理的実践の推進、組織改革への働きかけ |
| 社会に対する倫理責任 | 社会への働きかけ、社会正義の実現、国際的視点 |
| 専門職としての倫理責任 | 専門性の向上、信用失墜行為の禁止、社会的信用の保持、スーパービジョン・教育への関与 |
倫理的ジレンマは一人で抱えない
「本人の自己決定」と「安全の確保」が衝突する場面(セルフネグレクト、支援拒否等)は倫理的ジレンマの典型。倫理綱領は答えを与えるものではなく判断の枠組みである。事業所内での検討、基幹相談支援センターへの相談、スーパービジョンを使って組織として判断する。
バイステックの7原則
援助関係の形成原則として最も広く参照されるのが、バイステック(F. P. Biestek)の7原則である。面接・訪問のすべての場面で意識したい。
| 原則 | 内容 | 実務での意味 |
|---|---|---|
| 個別化 | クライエントを「〜という障害の人」ではなく固有の個人として捉える | 障害種別・区分でパターン化した計画を作らない。生活歴・価値観から出発する |
| 意図的な感情表出 | 否定的な感情も自由に表現できるよう促す | 不満・怒り・不安を遮らず語ってもらう。訴えの背後のニーズを探る |
| 統制された情緒的関与 | 援助者は自分の感情を自覚し、目的をもって応答する | 陰性感情・過剰な同情に気づく。逆転移的な反応を記録・SVで点検する |
| 受容 | あるがままの姿を受けとめる(逸脱行動の是認ではない) | 支援拒否・中断歴のある人ほど、まず受けとめることから関係をつくる |
| 非審判的態度 | 援助者の価値観で善悪を裁かない | 金銭管理・生活習慣・家族関係を「指導」の対象にしない |
| 自己決定 | クライエント自身の選択と決定を尊重する | 計画は本人の意向が出発点。選択肢の提示と情報提供が相談員の仕事 |
| 秘密保持 | 職務上知り得た情報を守る | 担当者会議・照会での情報共有は本人同意の範囲で。個人情報使用同意書の運用 |
実践のレベル: ミクロ・メゾ・マクロ
| レベル | 対象 | 相談支援での例 |
|---|---|---|
| ミクロ | 個人・家族への直接支援 | 面接、アセスメント、計画作成、モニタリング、危機介入 |
| メゾ | グループ・組織・地域機関 | サービス担当者会議、事業所間連携、基幹相談支援センターとの協働、地域のネットワーク会議 |
| マクロ | 制度・政策・社会 | (自立支援)協議会での地域課題の提起、社会資源の開発、制度改善の提言 |
個別支援で見えた課題(ミクロ)を担当者会議・連携で調整し(メゾ)、地域に共通する課題は協議会へ上げる(マクロ)。この循環を意識することが、ケアマネジメントを「手続き」で終わらせないソーシャルワークの要点である。
相談支援専門員の業務はソーシャルワークである
- 基本相談支援は、契約・給付の枠にとらわれない相談援助であり、ソーシャルワークの入口そのもの。計画相談の土台と位置づけられている。
- 計画相談支援(アセスメント→計画→担当者会議→モニタリング)は、ケアマネジメントの過程にソーシャルワークの価値・技術を乗せて展開する実践である。
- 厚生労働省の相談支援専門員の養成カリキュラムも、相談支援専門員をソーシャルワークの担い手と位置づけている。「制度をつなぐ人」ではなく「人と環境に働きかける専門職」として業務を捉え直すことが、このセクションの目的である。
このセクションの構成
| ページ | 内容 |
|---|---|
| 基盤となる理論・視点 | システム理論・生態学的視点、バイオ・サイコ・ソーシャル、ストレングス、ICF等 |
| 実践モデル・アプローチ | 課題中心・危機介入・解決志向・ナラティブ等の使い分け |
| 面接技術・コミュニケーション | 傾聴・質問技法・面接の構造 |
| 権利擁護とアドボカシー | 意思決定支援・虐待防止・成年後見等 |
相談支援専門員の視点
- 計画相談の書式を埋める作業に追われると、価値・倫理の視点は簡単に抜け落ちる。アセスメントの前に7原則、計画作成の前にグローバル定義を思い出す習慣をつける。
- 「本人の希望」と「家族の希望」が食い違うときこそ、自己決定の原則と権利擁護の視点に立ち返る。
- ミクロで完結させない。同じ困りごとが複数ケースで続くなら、それは地域課題であり協議会マター(マクロ実践)である。
- 倫理綱領・7原則は現任研修や事業所内研修の教材としても使える。新人育成の共通言語にする。