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クライシスプラン
クライシスプランは、調子の波があることを前提に、危機のサインと対応を調子の良いときに本人と支援者で事前に合意しておく計画である。危機の渦中では本人の意思確認が難しくなるからこそ、平時に本人の希望を言語化しておくことが、危機時にも本人の意思を尊重した対応を可能にする。
目的
- 調子の波(安定→注意→危機)を本人・家族・支援チームで共通の言葉で共有する。
- 危機時に「誰が・何を・どこまでするか」を事前に合意し、場当たり的な対応や本人不在の決定を防ぐ。
- 本人にとっては、自分の波を客観視するセルフモニタリングの道具になり、「危機は予測でき、対処できる」という感覚(コントロール感)の回復につながる。
- 支援者にとっては、緊急時対応の判断基準が明確になり、抱え込みや過剰介入を防げる。
盛り込む内容
3段階のサインと、各段階での「本人の対処」「周囲の対応」を対にして整理するのが基本形である。
| 段階 | サインの例 | 本人の対処の例 | 周囲の対応の例 |
|---|---|---|---|
| 安定時 | よく眠れている、決まった時間に起きる、趣味を楽しめる | 生活リズムの維持、服薬継続、楽しみの継続 | 普段どおりの関わり。安定時の状態を覚えておく |
| 注意サイン | 眠りが浅い、頓服が増える、人と会いたくない、音に敏感 | 予定を減らす、頓服を使う、支援者に連絡する | 声かけの頻度を上げる、受診の前倒しを提案、負荷を減らす調整 |
| 危機時のサイン | 眠れない日が続く、幻聴が強まる、死にたい気持ち、連絡が取れない | (できる範囲の対処)安全な場所にいる、決めた人に電話する | 緊急連絡先へ連絡、受診同行、あらかじめ決めた対応の実行 |
あわせて次を明記する。
- 緊急連絡先: 誰に・どの順で・何時まで連絡してよいか(家族・相談支援・訪問看護・主治医・夜間休日の窓口)
- 頓服の扱い: 使うタイミングの目安(具体的な薬剤・用量は主治医の指示によることを明記)
- 入院についての希望: 入院を希望する条件・希望する病院・避けたい対応(本人の言葉で)。してほしくないこと(例: 大勢で駆けつけない・本人抜きで決めない)も本人の言葉で残す
作成のプロセス
- 安定期に、本人主体で作る。危機の直後は振り返りの材料が新しい一方、本人が自責的になりやすい。時期は本人と相談して決める。
- 過去の危機のエピソードを「責め」ではなく**「対処の材料」として振り返る**。「あのとき、どうなっていった?」「何が助けになった?/嫌だった?」と、本人の体験から言葉を拾う。
- サインは支援者から見えるもの(客観)と本人にしか分からないもの(主観)の両方を載せる。家族・訪問看護など日常を知る人の視点も本人の同意を得て加える。
- 完成したら本人・家族・支援チームで共有し、誰が保管し危機時に誰が起動するかを決める。作って終わりにせず、モニタリングや危機の後に見直して更新する。
「管理の道具」にしない
支援者が本人を監視・管理するためのリストになった瞬間、クライシスプランは機能しなくなる。主語は本人であり、「自分の波と付き合うための本人の道具を、支援者が一緒に作る」という順序を崩さない。本人が書けない項目は空欄のまま持ち越してよい。
サービス等利用計画・地域定着支援との関係
- サービス等利用計画: クライシスプランは計画の別紙・付属資料として位置づけると、支援チーム全体(通所先・ヘルパー等)への共有と定期的な見直し(モニタリング)の仕組みに乗せられる。計画の「緊急時の対応」欄と整合させる。
- 地域定着支援: 常時連絡体制と緊急時対応を給付として担う事業であり、クライシスプランは緊急時対応の台帳・手順書の実質的な中身になる。単身の精神障害のある人の地域生活では両者を一体で整える。
- 地域移行支援: 退院直後は再入院リスクが高く、退院前にクライシスプランを作って院内スタッフ・地域チームで共有しておくと移行が安定しやすい。
WRAPとの違い
- WRAP(元気回復行動プラン)は、当事者メアリー・エレン・コープランドらが開発したセルフヘルプの道具であり、元気に役立つ道具箱・日常管理プラン・注意サイン・クライシスプランなどで構成される。本人が自分のために作り、当事者同士のクラス(ファシリテーターとの学び合い)で育てていくものである。
- クライシスプランが支援者との共同作成・チーム共有を前提とするのに対し、WRAPは本人のものであり、支援者に見せるかどうかも本人が決める。
- 両者は排他的ではない。WRAPに取り組んでいる人なら、その内容を本人の同意のもとでクライシスプランに活かせる。支援者がWRAPを「提出させる」ことは趣旨に反する。
相談支援専門員の視点
- クライシスプランの価値は紙ではなく作る過程の対話にある。サインを一緒に言葉にする作業自体が、本人の自己理解と支援者への信頼を育てる。
- 「入院の希望・避けたい対応」を平時に聞いておくことは、非自発的入院に至る場面でも本人の意思を代弁する根拠になる。意思決定支援の実践そのものである(意思決定支援)。
- 危機が起きたら、収束後に本人とプランを見直す。「プランどおりで良かったこと/実際は違ったこと」を更新することで、プランは使うたびに本人のものになっていく。