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ソーシャルワーカーの倫理綱領

日本ソーシャルワーカー連盟(JFSW)の「ソーシャルワーカーの倫理綱領」(2020年改定)は、グローバル定義を土台に、専門職として守るべき行動の基準を体系化した文書である。答えを与えるマニュアルではなく、迷ったときの判断の枠組みとして使う。相談支援専門員の日常判断(情報共有・自己決定とリスク・組織との関係)のほぼすべてがこの綱領の射程に入る。

倫理綱領の構成

部分内容
前文ソーシャルワーク専門職のグローバル定義(2014年)を実践の拠りどころとすることを宣言
原理人間の尊厳/人権/社会正義/集団的責任/多様性の尊重/全人的存在 の6項目
倫理基準4つの柱(クライエント/組織・職場/社会/専門職)ごとに具体的な責任を列挙

2020年改定は2014年グローバル定義の採択を受けたもので、原理に集団的責任・多様性の尊重が加わり、クライエントの定義の拡大、情報通信技術(ICT)使用時の倫理などが盛り込まれた。JFSWを構成する各職能団体(日本ソーシャルワーカー協会、日本医療ソーシャルワーカー協会、日本精神保健福祉士協会、日本社会福祉士会)が共通で採択している。

4つの柱と主要項目

1. クライエントに対する倫理責任

項目実務での意味
クライエントとの関係利益相反の回避。自法人サービスへの誘導をしない
説明責任契約時・計画作成時に分かる方法で説明する(→障害特性に応じた面接の配慮)
クライエントの自己決定の尊重計画は本人の意向が出発点。決定の結果が重大な場合も、まず決定を支える
意思決定への対応意思決定が困難な人にも意思を尊重した支援を行う(→意思決定支援)
プライバシーの尊重と秘密の保持情報共有は本人同意の範囲で。同意書の運用を形式化しない
記録の開示本人から求められたときの開示を前提とした記録を書く(→記録の書き方)
差別や虐待の禁止・権利擁護支援者側の権利侵害への感度を持つ

2. 組織・職場に対する倫理責任

  • 組織の理念・方針が倫理綱領と衝突する場合、組織に従って終わりにせず、組織の側の改善に働きかける責任がある(倫理的実践の推進、組織改革)。
  • 同僚の倫理的問題(不適切な支援・ハラスメント)を見過ごさないことも含まれる。

3. 社会に対する倫理責任

  • 社会への働きかけ(ソーシャル・アクション)、社会正義の実現、グローバル社会への働きかけ。
  • 相談支援では、個別ケースで見えた地域課題を(自立支援)協議会に提起する活動がこの柱の実践に当たる(→ミクロ・メゾ・マクロ実践)。

4. 専門職としての倫理責任

  • 専門性の向上(研修・自己研鑽)、信用失墜行為の禁止、社会的信用の保持。
  • 教育・訓練・管理における責務、スーパービジョンの活用もここに位置づく。「忙しくて研修に出られない」が続く状態は、個人の問題であると同時に組織の倫理課題でもある。

倫理的ジレンマの典型例

典型例衝突している価値
ゴミ屋敷状態だが「このままでいい」と支援を拒む自己決定 vs 生命・健康の保護
家族が「本人には病名・制度のことを伝えないで」と求める家族との協力関係 vs 本人への説明責任・知る権利
本人が「誰にも言わないで」と語った内容が支援会議で必要秘密保持 vs 連携による本人の利益
虐待が疑われるが確証がなく、通報すれば家族との関係が壊れる通報義務 vs 関係維持による継続支援
法人の経営方針として自法人サービス利用を勧めるよう言われる組織への責任 vs クライエントの利益

倫理的ジレンマの検討手順

  1. ジレンマの明確化 — 何と何が衝突しているのかを価値のことばで言語化する。「対応に困るケース」のままにしない。
  2. 関係者と価値の整理 — 本人・家族・関係機関それぞれの利益・意向・権利を書き出す。事実と推測を区別する。
  3. 選択肢の比較 — 考えられる対応を複数挙げ、それぞれについて「誰の何の権利・利益がどう影響を受けるか」「取り返しがつくか」を比較する。
  4. 組織的判断 — 一人で決めない。事業所内での検討、基幹相談支援センターへの相談、スーパービジョンを経て、組織としての判断にする。
  5. 記録 — 検討の過程(選択肢・判断理由・誰と協議したか)を記録に残す。後の検証と説明責任の基盤になる。

倫理綱領は「使って」初めて意味を持つ

綱領は壁に貼る文書ではなく、ジレンマ検討の共通言語である。事例検討で「この場面は綱領のどの項目に関わるか」を一つ挙げるだけでも、議論が「個人の感想」から「専門職の判断」に変わる。新人教育・事業所内研修の教材としても有効である。

実務での使い方

  • 契約時: 説明責任・秘密保持・記録の開示は契約面接の説明事項と直結する。重要事項説明を「読み上げ」で済ませず、綱領の趣旨(本人の権利保障)に立ち返って運用する。
  • 困難ケースの会議: 検討手順1〜5を会議のアジェンダにすると、感想の言い合いではなく構造化された倫理検討になる。
  • 苦情対応: 苦情は倫理の点検機会である。苦情解決・運営適正化委員会の仕組みと合わせて整理しておく。

相談支援専門員の視点

  • 相談支援専門員は社会福祉士・精神保健福祉士の資格がなくても従事できるが、業務の性質はソーシャルワークであり、この綱領を自らの行動基準として採用することが専門性の担保になる。
  • ジレンマで最初に削られやすいのは本人の自己決定である。「本人抜きの方針決定」が起きていないか、会議の場に本人がいない理由を毎回問い直す。
  • 綱領は完璧な実践を求める文書ではない。守れなかった場面を隠すのではなく、検討・記録・相談のプロセスに乗せることが倫理的であるということを、事業所の文化として共有したい。

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