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ストレングス視点
問題・欠陥ではなく、本人と環境が持つ**強み(ストレングス)**に焦点を当てる視点。サービス等利用計画の「本人の希望する生活」を定型文にしないための根拠であり、アセスメントの向きを「できないこと探し」から「望む暮らしの材料探し」へ反転させる実践哲学である。
視点の原則 — サリービーらの整理
サリービー(D. Saleebey)は、ストレングス視点を支える前提を次のように整理した。
| 原則 | 趣旨 |
|---|---|
| すべての個人・家族・地域はストレングスを持つ | 例外はない。見つかっていないだけである |
| 逆境・病い・困難は、傷であると同時に挑戦と成長の機会でもありうる | 苦労の経験そのものが対処力・知恵という資源になる |
| 成長と変化の上限は誰にもわからない | 「この人はここまで」という予後の決めつけを排する |
| 本人との協働によってこそ最良の支援ができる | 本人は支援の対象ではなくパートナーである |
| すべての環境は資源に満ちている | 地域は障壁の集まりではなく「資源のオアシス」でもある |
ラップとゴスチャのストレングスモデル
ラップ(C. A. Rapp)とゴスチャ(R. J. Goscha)は、精神障害のある人のケースマネジメントの方法としてストレングスモデルを体系化した。その6原則の趣旨は以下のとおり。
| 原則(趣旨) | 実務的な意味 |
|---|---|
| 精神障害があっても人はリカバリーし、生活を改善し質を高めることができる | 支援の出発点は可能性への信頼(リカバリーと地続き) |
| 焦点は欠陥ではなく個人のストレングス | アセスメントの主対象を強み・願望に置く |
| 地域を資源のオアシスとして捉える | 制度サービスの前に、地域の場・人・活動を資源として見る |
| 本人こそが支援関係の監督者である | 目標・手段の決定権は本人にある |
| 支援者と本人の関係性が根本であり本質である | 信頼関係そのものが変化の道具(ラポール形成) |
| 支援の場所は面接室ではなく地域(生活の場) | 生活場面に出向くアウトリーチを基本とする |
ストレングスの拾い方 — 本人側と環境側
ストレングスは本人側と環境側の両方で拾う。片方だけでは計画の材料として不足する。
| 区分 | 拾う内容 | 例 |
|---|---|---|
| 本人側 | 性格・人柄 | 律儀、ユーモアがある、面倒見がよい |
| 才能・技能 | 料理、パソコン、絵、力仕事 | |
| 関心・願望 | 好きなこと、やってみたいこと、憧れ | |
| 経験 | 職歴、乗り越えてきた困難、対処の工夫 | |
| 環境側 | 人間関係 | 気にかけてくれる親戚、昔の同僚、なじみの店主 |
| 場・機会 | 通える場所、図書館、神社、趣味のサークル | |
| インフォーマル資源 | 近隣の見守り、ボランティア、ピアの仲間 |
ストレングスアセスメントの実際
- 問題リストとは**別の紙(欄)**に、本人の言葉のまま書きとめるのが基本。専門用語に翻訳すると願望の熱が抜ける。
- 「今持っているもの」「過去に使えていたもの」「これから望むもの」の3つの時間軸で聞くと引き出しやすい。
- 聞き方は尋問ではなく会話で。「休みの日は何をして過ごしていますか」「昔いちばん楽しかった時期は?」「調子が良かった頃は何が違いましたか」など、生活の語りの中から拾う(解決志向アプローチの例外探しと相性がよい)。
- 拾ったストレングスは目標と手段に接続してこそ意味がある。「絵が好き」で終わらせず、「絵を通じた日中活動の場を探す」まで計画に翻訳する。
「リスクを軽視するのでは」という批判への応答
ストレングス視点には「強みばかり見てリスクや症状を軽視する」「ポジティブの押しつけになる」という批判がある。実務上は次のように応答する。
- ストレングス視点はリスクアセスメントの省略ではない。安全確認・医療的管理が必要な事項は並行して評価する。強みに注目することと、リスクを見ないことは別である。
- 苦労や症状の語りを遮って強み探しをするのは誤用である。苦労を十分に受けとめた上で、苦労の中でできていることに光を当てるのが本来の使い方。
- 「何でもできる」と励ますことではない。現に持っている資源から出発する現実主義であり、根拠のない楽観とは異なる。
様式が問題志向にできていることを自覚する
アセスメント様式・支給決定の仕組みは「できないこと・支援の必要性」を書かせる構造になっている(必要性の証明が支給の根拠になるため)。様式に引きずられると面接まで問題志向になる。様式のためのできないこと聞き取りと計画のためのストレングス聞き取りを意識的に両立させる。
相談支援専門員の視点
- ニーズの記述を「〜できない」からではなく「〜したい」から書き起こす。同じ事実でも「入浴ができない」と「さっぱりした状態で人に会いたい」では、計画の向きが変わる。
- 「本人の希望する生活」欄が空欄・定型文になるのは、聞いていないか、聞いたが計画に翻訳していないかのどちらかである。ストレングスアセスメントはこの欄の材料集めである。
- 環境側ストレングスの発見は相談支援専門員の独壇場である。制度サービスの前に、その人の生活圏にある場・人を資源として計画に載せられないか検討する。
- 精神科領域の関係機関とはストレングス・リカバリーが共通言語になりやすく、連携の質を上げる。