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知的障害の定義

知的障害には、実は法律上の統一された定義がない。行政実務・国際的な診断基準がそれぞれ何を要件としているかを知っておくと、「IQがいくつだから」という単純な理解から離れ、手帳判定や医学的診断の結果を実務でどう読むかが変わる。

知的障害者福祉法に定義規定がない

  • 知的障害者福祉法には知的障害の定義規定が置かれていない。身体障害(身体障害者福祉法の別表)や精神障害(精神保健福祉法の定義)と異なる、知的障害の制度上の大きな特徴である。
  • このため実務上は、①療育手帳の判定、②医学的診断(知的発達症/知的能力障害)、③行政調査で用いられてきた整理、を手がかりに判断される。
  • 法律上の障害者の定義全体の整理は法律上の障害者の定義を参照。

行政上の定義 — 3つの要件

国の調査等で用いられてきた行政上の整理では、知的障害はおおむね次の3要件で捉えられる。

要件内容
① 知的機能の制約知能検査等で測定される知的機能に明らかな制約がある
② 適応行動の制約日常生活能力(意思疎通・身辺処理・社会生活・仕事など)に制約があり、支援を要する
③ 発達期の発症おおむね18歳までの発達期に生じている
  • 3要件は「かつ」で結ばれる。知的機能の制約だけでは知的障害とは判断されない
  • ③があるため、成人期以降の疾患・事故による認知機能の低下(認知症・高次脳機能障害)は知的障害と区別される(→高次脳機能障害の定義)。

国際的な定義 — AAIDDとDSM-5

枠組み概要
AAIDD(米国知的・発達障害協会)知的機能と適応行動(概念的・社会的・実用的スキル)の両方の明らかな制約、発達期の発症で定義。必要な支援の強度で人を捉える発想を打ち出したことで知られる
DSM-5(米国精神医学会)「知的能力障害(知的発達症)」。知的機能の欠陥、適応機能の欠陥、発達期の発症の3基準。重症度(軽度〜最重度)をIQ値ではなく適応機能で判定する方式に変わった
  • いずれも方向性は共通しており、IQの数値中心から、適応行動・必要な支援の中身を重視する方向へ移ってきている。
  • 「その人に何ができないか」ではなく「どんな支援があれば生活が成り立つか」を記述する発想であり、ICFの生活機能モデル(ICF(国際生活機能分類))とも重なる。

知能検査と適応行動評価の位置づけ

  • 知的機能の評価にはウェクスラー式知能検査(WISC・WAIS等)や田中ビネー知能検査などが用いられる。療育手帳の判定でも知能検査は主要な材料になる。
  • ただし検査結果は、当日の体調・緊張・検査者との関係・言語や文化の背景に影響される。1回の検査値=その人の能力の固定的な値ではない
  • 適応行動は、生活場面の観察や養育者・支援者からの聞き取り、適応行動評価尺度などで把握される。検査室でできること・できないことと、生活場面での実際は一致しないことが多い。

検査結果を読むときは「数値」より「プロフィール」

総合IQが同じでも、言語理解が強く作業速度が弱い人と、その逆の人では、必要な配慮がまったく異なる。心理検査報告書を入手できたときは、総合値ではなく下位領域の凸凹と所見(どんな課題をどう解いたか)を読み、面接や計画の配慮事項に落とし込む。

「IQだけで判断しない」ことの実務的な意味

  • IQが基準値の近辺にある人でも、適応行動の制約が大きければ支援の必要性は高い。逆に検査値が低くても、環境が整っていれば生活が安定している人もいる。
  • 数値だけで判断しないという原則は、「境界域だから対象外」と機械的に切らないためのものでもある。療育手帳の対象とならない境界知能の人の生活のしづらさは、制度の狭間になりやすい。
  • 定義が「知的機能×適応行動×環境」でできている以上、アセスメントも生活場面ベースで行うことが定義そのものから要請されている、と理解しておく。

相談支援での活用

  • インテークで「手帳の区分」「IQ」だけを聞いて分かった気にならない。具体的な生活場面(金銭・手続き・調理・移動・対人)で何がどこまでできるかを確認するのが、定義の3要件に沿ったアセスメントになる。
  • 手帳を持っていない・判定を受けたことがない相談者でも、生育歴(発達期からの困難か)と適応行動の状態から知的障害の可能性を見立て、必要なら判定・受診につなぐ。
  • 18歳前後で新規に相談につながるケースでは、発達期の記録(母子手帳・学校の資料)が判定の材料になることを家族に伝えておく。

相談支援専門員の視点

  • 「軽度=支援が少なくてよい」ではない。定義が適応行動重視に動いてきた背景には、数値上軽度の人の生活破綻が見過ごされてきた反省がある(→知的障害の程度の考え方)。
  • 検査を受けること自体が本人に侵襲的な体験になり得る。検査の目的(何のために・結果がどう使われるか)を本人が分かる形で説明することも意思決定支援の一部。
  • 診断・判定はあくまで医療機関・判定機関の役割。相談支援専門員は結果を生活支援に翻訳する立場と心得る。

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制度・基準は変わる

定義・判定基準の運用は見直されることがある。判定や診断に関わる具体的な取扱いは、最新の法令・通知・判定機関の案内で確認すること。