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「見えない障害」であること

高次脳機能障害の支援の難しさの多くは、症状そのものではなく「外からは見えない」ことに由来する。誤解による孤立、本人と周囲の認識のずれ、支援につながるまでの長い空白——これらは支援の入口の問題であり、相談支援専門員が最初に向き合うテーマである。

なぜ「見えない」のか

見えない理由具体的な状況
外見に現れない身体麻痺を伴わなければ、歩き方・見た目は発症前と変わらない
短時間の会話は成立する挨拶・雑談・定型的な受け答えは保たれることが多く、初対面では気づかれない
「取り繕い」ができる分からなくても話を合わせる、できると答える。面接場面では特に働く
症状が状況依存で変動する静かな場・慣れた相手では問題なく、負荷がかかる場面でだけ破綻する
本人が症状を語れない病識の低下により、本人の口から困りごとが出てこない

「見えない」ことが生む誤解

  • 周囲(職場・学校・親族・近隣)からは、失敗や変化が**「怠け」「やる気の問題」「性格が変わった」**と解釈されやすい。障害としての理解がないまま叱責・注意が繰り返されると、本人の自信喪失や二次的な抑うつ、対人トラブルにつながる。
  • 職場では「見た目は元どおりなのに仕事ができない」と評価が下がり、本人は理由が分からないまま退職に至ることがある。失敗体験を重ねてから支援機関にたどり着くケースが典型的である。
  • 家族の中でも理解に差が生じる(毎日接する配偶者は気づいているが、離れて暮らす親族は「普通に見える」と言う等)。この温度差自体が家族を孤立させる。

本人の病識と周囲の理解のずれ

  • 病識の低下は「強がり」や「否認」とは異なり、自分の変化に気づく機能そのものの障害である場合がある。一方で、うすうす気づいているが認めたくないという心理的な否認が重なっていることも多く、両者は截然と分けられない。
  • 本人は「働ける」、家族は「無理」、というずれは典型的な構図である。どちらかを正すのではなく、ずれがあること自体を前提に、体験・実習など現実に触れる機会を通じて本人の自己理解が育つのを待つ。
  • 障害受容を急がせない。「障害を認めさせること」を支援の前提条件にすると、本人は支援から離れていく。受容より先に、困りごとが減る体験(代償手段がうまくいった、居場所ができた)を積むほうが結果的に自己理解につながる。

「まず障害受容」を支援の条件にしない

「本人が障害を認めないので支援できない」は支援側の論理である。病識の低下は症状であり、説得では変わらない。本人の希望(例: 働きたい)を入口にして関係をつくり、現実検討は体験を通じて緩やかに進める。

家族だけが気づいている段階の支援

  • 「本人は困っていないと言うが、家族が疲れ果てて相談に来る」段階は、高次脳機能障害の相談の典型的な入口である。この段階では家族支援がそのまま本人支援の入口になる。
  • 家族からの相談だけでも受け止め、①症状としての理解(性格ではないこと)の共有、②家族会・支援拠点機関の情報提供、③本人が乗りやすい入口(就労・体験・趣味的活動)の検討、を進める。
  • 本人が来所しない場合でも、家族を通じた間接的な情報収集で暫定的なアセスメントを組み立てられる。本人と会う機会は「相談」と銘打たない形(見学同行等)のほうが実現しやすいことがある。

職場・学校・関係機関への説明の工夫

  • 症状名の羅列ではなく、**「この場面で、こういうことが起こりやすい。こうしてもらえると防げる」**という行動レベル・対処つきの説明が伝わる(例:「口頭指示は忘れやすい→メモかチャットで残してほしい」)。
  • 本人の同意を前提に、伝える範囲を本人と一緒に決める(誰に・どこまで)。診断名を出すかどうかも本人の選択である。
  • 「できないこと」だけでなく保たれている力(定型業務の正確さ・真面目さ等)をセットで伝えると、受け入れ側は配置・役割を考えやすい。
  • 説明は一度では定着しない。受け入れ側の担当者交代・配置換えのたびに更新が必要になることを見込んでおく。合理的配慮の枠組みは障害者差別解消法と合理的配慮を参照。

相談支援専門員の視点

  • 面接での印象(受け答えが良好)と生活実態のギャップこそ、この障害のアセスメントの核心である。「面接でできる」を「生活でできる」と読み替えない。生活場面のエピソードを本人・家族双方から集める。
  • 本人の「困っていない」という言葉は、支援不要のサインではなく病識低下のサインかもしれない。本人の主観的な語りと客観的な情報を、どちらも否定せずに記録に併記する。
  • 支援者自身も誤解する側になりうる。「先週説明したのに」「約束したのに」と感じたら、それは症状の現れとして計画(説明方法・リマインドの仕組み)に反映する。
  • 関係機関への説明役は、相談支援専門員が担える重要な役割である。本人が自分で説明できるよう、本人用の「トリセツ」(自己紹介シート)づくりを一緒に行うのも有効である。

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