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高次脳機能障害の定義
高次脳機能障害という言葉は、医学(学術)の用語と行政(支援制度)の用語で指す範囲が異なる。相談支援で使うのは主に行政的定義であり、その中核は「事故・疾病による後天的な脳損傷」と「認知障害による生活のしづらさ」の2点である。定義を正確に押さえることが、手帳・サービス・支援拠点へのつなぎ方の出発点になる。
行政的定義と学術的定義の違い
| 区分 | 指す範囲 | 特徴 |
|---|---|---|
| 学術的(医学的)定義 | 失語・失行・失認など、大脳の器質的損傷による認知機能障害の総称 | 古くからある神経心理学の概念。症状名で語られる |
| 行政的定義 | 記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害を主たる症状とし、日常生活・社会生活に制約がある状態 | 支援制度の谷間に落ちていた人を救済するために、支援対象を画定する目的で定められた |
- 行政的定義が生まれた背景には、「身体は回復したのに以前のように生活・仕事ができない」人たちが、身体障害・知的障害・精神障害のどの制度にも乗りにくく、制度の谷間に置かれていたという経緯がある。
- したがって行政的定義は「診断名」であると同時に「支援の入口をつくるための枠組み」である。医学的には失語・失認等も高次脳機能障害に含まれるが、行政的定義では主要症状として前面に出ていない、というずれを理解しておく。
主な原因(原因疾患)
| 原因 | 例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 脳血管障害 | 脳梗塞・脳出血・くも膜下出血 | 原因として最も多い。中高年に多いが若年発症もある |
| 脳外傷(頭部外傷) | 交通事故・転落・スポーツ事故・労災 | 若年層に多い。びまん性軸索損傷では画像所見が乏しいことがある |
| 低酸素脳症 | 心肺停止からの蘇生後、窒息 | 記憶障害が前面に出やすい |
| 脳炎・脳症 | ヘルペス脳炎等 | 感染症後に認知障害が残る |
| 脳腫瘍・その他 | 腫瘍・術後、正常圧水頭症等 | 進行性かどうかで扱いが変わる |
診断基準の構成
行政的定義に基づく診断基準は、おおむね次の4つの柱で構成される。診断は医療機関(医師)が行う。
| 柱 | 内容 |
|---|---|
| I. 主要症状等 | ①器質的病変の原因となる事故・疾病の事実が確認されている、②日常生活・社会生活への制約があり、その主たる原因が記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害などの認知障害である |
| II. 検査所見 | MRI・CT・脳波等で器質的病変の存在が確認されている(または過去の診断書等で確認できる) |
| III. 除外項目 | 身体障害として認定可能な症状のみの場合/受傷・発症以前からあった症状/先天性疾患・周産期の脳損傷・発達障害・進行性疾患を原因とする場合/受傷・発症後の急性期の意識障害の期間の症状 |
| IV. 診断 | I〜IIIをすべて満たした場合に診断する。神経心理学的検査の所見を参考にできる |
- 「事故・疾病の事実の確認」が要件であるため、受傷時の受診記録・救急搬送記録・診断書などの過去の記録が診断の材料として重要になる。時間が経ってから支援につながったケースでは、この記録の掘り起こしが最初の実務になることがある。
- 除外項目は「その症状を説明するのに、後天的な脳損傷以外の原因(生来の特性・進行性の疾患など)が当てはまる場合は別の枠組みで支援する」という整理であり、支援に値しないという意味ではない。
「原因の事実確認」がアセスメントの起点
初回相談では、いつ・何が起きたか(発症・受傷の時期と経緯)、どこで治療を受けたかを丁寧に聞き取る。診断がまだない人でも、この事実関係が整理できれば診断可能な医療機関・支援拠点機関へつなぎやすくなる。
若年での受傷が多いことの意味
- 脳外傷は交通事故・転落等によるため、10〜30代の若年層にも多く生じる。若くして受傷するということは、その後の人生が数十年単位で続くということであり、支援は「治療」より「生活と人生の再建」が主題になる。
- 就学・就職・結婚・子育てなど、ライフイベントの途中で障害を負うため、進路変更・離職・役割の喪失といった課題が生じる。介護保険の対象年齢に達しない層が中心であり、障害福祉サービスが生活を支える主たる制度になる。
- 親が主たる支援者となっている場合、「親亡き後」の課題は知的障害の場合と同様に生じる。長期の伴走を前提に、地域の資源とのつながりを早くから複線化しておく。
相談支援での活用
- 「高次脳機能障害の診断があるか」だけでなく、行政的定義の要件(原因の事実・認知障害・生活の制約)を満たしそうかという目で情報を整理すると、未診断の人の拾い上げに使える。
- 除外項目の知識は鑑別の入口になる。発症前からの特性が疑われる場合は発達障害の理解、進行性疾患の場合は難病・重症心身障害・医療的ケアの理解の枠組みも参照する。
- 診断・判定はあくまで医療機関の役割であり、相談支援専門員は「診断につながる道筋の整理」と「診断を待たずにできる生活支援」を並行して進める。
相談支援専門員の視点
- 本人・家族は「高次脳機能障害」という言葉自体を知らずに、「事故のあと人が変わった」「退院したのに仕事が続かない」という形で相談に来る。言葉より先にエピソードがあることを前提に、定義に当てはめて翻訳するのが専門職の仕事である。
- 発症・受傷から年数が経っているケースほど、原因の事実確認(当時の医療記録)が難しくなる。家族が保管している書類(診断書・保険関係書類・障害年金関係)が手がかりになる。
- 定義上の除外項目に当たりそうなケース(先天性・進行性等)でも門前払いにせず、該当する制度の枠組みへつなぎ直す姿勢を持つ。
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制度・基準は変わりうる
診断基準・支援制度の内容は見直されることがある。実務では最新の告示・厚生労働省資料・自治体資料で確認すること。診断の判断は必ず医療機関に委ねる。