ダークモード
ナラティブアプローチ
本人が自分の人生について語る物語(ナラティブ)に注目するアプローチ。問題が染み込んだドミナントストーリー(「自分は何もできない人間だ」)を唯一の真実とせず、対話を通じてオルタナティブストーリー(もう一つの筋書き)が立ち上がるのを支える。「本人の語りを聞く」ことを最も深いレベルで理論化したアプローチと言える。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な提唱者 | マイケル・ホワイト(M. White)、デイヴィッド・エプストン(D. Epston) |
| 理論的基盤 | 社会構成主義(現実は言葉・語りを通じて社会的に構成されるという立場)、家族療法 |
| 中心概念 | ドミナントストーリー、オルタナティブストーリー、外在化、ユニークな結果 |
| 援助者の姿勢 | 無知の姿勢(not-knowing)——専門家が本人の人生を解釈するのではなく、本人こそが人生の著者と見る |
理論的背景
- 社会構成主義は、「問題」が客観的に存在するのではなく、語り方・意味づけを通じて構成されると考える。診断名やアセスメントの記述もまた一つの「物語」であり、本人の自己理解を強力に方向づける。
- 人は自分の経験を物語の形で意味づけて生きている。問題が長く続くと、問題に沿った出来事ばかりが選択的に記憶・語りに組み込まれ、**問題が染み込んだ物語(ドミナントストーリー)**が人生の唯一の筋書きになっていく。
- しかし人生の経験は物語より常に豊かであり、筋書きに合わない出来事(ユニークな結果)が必ず存在する。そこから別の物語を紡ぎ直せる、というのがこのアプローチの人間観。
中心概念と技法
外在化(externalization)
問題を本人の内部にある属性ではなく、本人の外にあるものとして名前をつけて扱う技法。「本人=問題」ではなく「本人 vs 問題」の構図に組み替える。
例: 「あなたはすぐパニックになる人だ」→「『パニックさん』は、どんなときにやって来ますか?」「『パニックさん』に乗っ取られなかったときはありますか?」
- 外在化により、本人と家族が問題を挟んで対立するのではなく、問題に対して同盟を組むことができる。
- 責任の放棄ではない。問題と自分を切り離すことで、かえって問題への対処を主体的に考えられるようになる。
ユニークな結果(unique outcomes)
ドミナントストーリーの筋書きに合わない出来事。「何もできない人」の物語の中の「あのとき自分で電話をかけた」という事実など。ここを見つけて厚く語ってもらうことが、オルタナティブストーリーの起点になる。解決志向アプローチの「例外」と発想が近い。
物語を厚くする(re-authoring)
ユニークな結果を単発のエピソードで終わらせず、「それができたのは、あなたのどんな力・どんな大切にしているものがあったから?」「他にもそういうことは?」と過去・現在・未来へつなぎ、もう一つの筋書きとして厚みを持たせていく対話の過程。
リ・メンバリング/証人
- リ・メンバリング: 本人の人生に肯定的な意味を与えてくれた人(故人・昔の恩師でもよい)を対話に呼び戻し、「その人はあなたの今の姿を見たら何と言うか」と物語に参加させる。
- 新しい物語は、聞き手(証人)に承認されることで現実味を増す。家族・支援者がオルタナティブストーリーの証人になることに意味がある。
向いている場面
- 長い失敗体験・入院歴・叱責体験などで否定的な自己像が固定しているケース。
- 家族が本人を「問題児」「困った人」として語り続け、その物語に家族全体が捕らわれているケース。
- 診断名・障害名が本人のアイデンティティを覆い尽くしてしまっているケース(「自分は統合失調症だから何もできない」)。
向いていない場面・限界
- 緊急の安全確保が必要な場面(→危機介入アプローチ)。虐待の事実を「一つの物語」として相対化してはならない。事実確認と保護が優先する領域がある。
- 具体的な資源調整・手続きが急がれる局面では、まず現実的な支援を先に(物語の再著述は時間のかかる営み)。
- 技法として浅く使うと「言い換えれば済む」というごまかしに見える。本人の苦しみの重さへの敬意が前提。
相談支援での活用
- 生活歴の聞き直し: アセスメントで生活歴を「問題の履歴」としてではなく**「乗り越えてきた物語」**として聞く。「その大変な時期を、どうやって切り抜けたんですか」という一問で、同じ生活歴がまったく別の物語になる。
- 計画は公式文書に載る物語: サービス等利用計画の「本人の希望する生活」「総合的な援助の方針」を本人の言葉で書くことは、オルタナティブストーリーを公式文書に載せる行為である。支援者の評価語(「問題が多い」「意欲が低い」)がドミナントストーリーを強化していないか点検する。
- 家族の物語への働きかけ: 担当者会議やモニタリングで、本人の「できたこと」のエピソードを関係者に共有するのは、証人を増やし新しい物語を厚くする実践でもある。
- 記録の書き方: ケース記録の記述もまた物語である。事実と評価を分け、本人の強み・対処が残る書き方を意識する。
相談支援専門員の視点
- 相談員は本人の人生の編集者ではなく、良い聞き手・証人。アセスメントの「見立て」が本人の物語を上書きしていないか、定期的に立ち止まる。
- 外在化の言葉づかい(「病気があなたに何をさせようとしていますか?」)は、面接で今日から使える。ただし技法の披露ではなく、本人が楽になる語り方の提案として。
- 支援がうまくいかないとき、支援者側にも「あの利用者は困難ケース」というドミナントストーリーができている。事例検討は支援者の物語を語り直す場でもある。
関連ページ
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