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動機づけ面接
動機づけ面接(Motivational Interviewing: MI)は、変化への迷い(両価性)を抱える人と協働し、本人自身の口から変化の理由が語られるように面接を組み立てるアプローチである。説得や指導が通用しない場面での、相談支援の強力な引き出しになる。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提唱者 | ウィリアム・ミラー(W. R. Miller)、ステファン・ロルニック(S. Rollnick) |
| 起源 | 1980年代、アルコール依存症治療の臨床から。説得・対決型の指導が抵抗を強めるという観察が出発点 |
| 適用の広がり | 依存症治療から保健医療・福祉・司法・教育へ拡大。行動変容が関わる幅広い援助場面で用いられる |
| 中心概念 | 両価性、チェンジトーク、正したい反射、OARS、4つの精神 |
両価性(アンビバレンス)の理解
「変わりたい、でも変わりたくない」が同じ人の中に同居している状態。動機づけ面接ではこれを変化の途上にある正常な状態と見る。
- 「やる気がない人」に見える人の多くは、動機がゼロなのではなく両価性の中にいる。「働きたい気持ちもあるが、失敗が怖い」「病院に行った方がいいとは思うが、認めたくない」。
- 支援者が「変わるべき理由」を一方的に語ると、本人は両価性のもう片側(変わらない理由)を担当することになり、説得すればするほど現状維持の理屈が強化される。
- 面接の目標は、本人が自分の両価性を眺め、自分の価値観に照らして変化の側の理由を自分の言葉で語ることである。
4つの精神(スピリット)
技法の土台となる基本姿勢。これを欠いた技法の模倣は操作になる。
| 精神 | 内容 |
|---|---|
| パートナーシップ(協働) | 専門家が正解を与えるのではなく、本人の専門性(自分の生活について)と対等に協働する |
| 受容 | 本人の絶対的価値・自律性を尊重する。正確な共感、是認を含む。変化を強制しない |
| 思いやり(コンパッション) | 本人の福利を最優先する。支援者や組織の都合のために面接を使わない |
| 引き出す(喚起) | 動機や資源は本人の中にすでにあると考え、外から注入するのではなく引き出す |
OARS — 中核となる4技法
| 頭文字 | 技法 | 内容・例 |
|---|---|---|
| O | 開かれた質問(Open Question) | 「働くことについて、今どんなふうに考えていますか」。考え・価値観を引き出す |
| A | 是認(Affirming) | 「体調が悪い中でも今日の約束を守ってくれたんですね」。強み・努力・意図を具体的に言葉で認める。お世辞や一般的な褒め言葉とは区別する |
| R | 聞き返し(Reflecting) | 相手の発言の意味・感情を推測して言葉にして返す。単純な聞き返し(言葉を返す)と複雑な聞き返し(裏の感情・意味まで返す)がある |
| S | 要約(Summarizing) | 語られたことを束ねて返す。チェンジトークを意図的に集めて返すと、本人が自分の変化の理由を一覧できる |
チェンジトークを拾い、育てる
| 種類 | 例 | 対応 |
|---|---|---|
| チェンジトーク(変化の方向の発言) | 「このままじゃまずいとは思う」「働けたらいいなとは思う」 | 聞き返しで拾って深める。「まずい、と感じているんですね。どんなところがそう思わせますか」 |
| 維持トーク(現状維持の方向の発言) | 「どうせ無理」「今のままでいい」 | 否定せず受け止める(聞き返してよい)が、あえて掘り下げない |
- チェンジトークは小さく弱い形で現れる(「まあ、ちょっとは思うけど」)。聞き逃さず、そこに面接の光を当てる。
- 本人の価値観(大事にしていること)と現状の矛盾に気づく問いも有効。「お子さんとの時間を大事にしたいとおっしゃっていましたが、今の生活はそこにどう影響していますか」。矛盾を突きつけるのではなく、本人が眺められるよう差し出す。
正したい反射(righting reflex)を抑える
支援者には、間違いを正し、良い方向へ導きたいという反射的衝動がある。動機づけ面接ではこれを正したい反射と呼び、最大の障害物と位置づける。
- 「でも、それは違いますよ」「〜すべきです」「〜した方がいいですよ」が典型。善意から出るが、両価性のある人には抵抗と維持トークを増やす。
- 正したい反射が出やすいのは、リスクが見えているとき(服薬中断・金銭問題・健康リスク)。リスクが高い場面ほど説得したくなり、説得が最も効かないというジレンマを自覚する。
- 情報提供が必要なときは、許可を得てから行う(「服薬について、こちらから一つお伝えしてもいいですか」)。伝えた後は「聞いてみてどうですか」と本人に返す。
動機づけ面接は「うまく誘導する技術」ではない
チェンジトークを拾う技術だけを使って、支援者や家族が望む結論へ誘導するのは動機づけ面接ではなく操作である。4つの精神、特に自律性の尊重(変わらない選択も本人のもの)が土台にあってはじめて成立する。意思決定支援の理念とも通底する(→意思決定支援)。
相談支援での活用
- サービス利用をためらう人: 「使った方がいいですよ」の説得をやめ、今の生活への思いと望む生活を開かれた質問で聴き、両価性を扱う。
- 受診・服薬に消極的な人: 正したい反射を抑え、本人が治療について感じているメリット・デメリットを両方語ってもらう。医療への橋渡しは本人のチェンジトークが育ってから。
- 生活習慣の課題(金銭・飲酒・生活リズム): モニタリングのたびに「約束したのにできていない」を確認する面接は維持トークを増やす。是認できる事実を探し、小さなチェンジトークを拾い直す。
- 就労への迷い: 「働きたいが怖い」は典型的な両価性。両方の気持ちを聞き返しで受けとめた上で、価値観(どんな生活がしたいか)から動機を引き出す。
相談支援専門員の視点
- 相談支援は「サービスにつなぐこと」が成果に見えやすく、つなぎを急ぐ構造的な圧がある。動機づけ面接は、つなぐ前の「本人の準備」に投資する技術として位置づけると導入しやすい。
- 家族や関係機関から「本人を説得してほしい」と依頼される場面こそ、正したい反射の罠になる。説得役を引き受けず、両価性に付き合う支援者として立ち位置を説明する。
- 逐語を使った振り返りで「正したい反射が出た場面」を数えるのは、事業所内研修の題材として効果的である。