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記録の書き方
面接は記録して完結する。記録は「書く暇があったら支援を」ではなく、支援の質そのものを支える業務である。ここでは記録の目的、文体の種類、SOAP等の様式、事実と解釈の区別、開示請求を前提とした書き方を整理する。
記録の目的
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| 支援の質の向上 | 書くことで支援を振り返り、見立てを言語化する。記録は思考の道具でもある |
| 支援の継続性 | 担当者の交代・不在時に支援を途切れさせない。過去の経過を引き継ぐ |
| 多職種連携 | サービス担当者会議・関係機関との共有の基礎資料になる |
| 説明責任 | 本人・家族、行政(実地指導・監査)への説明の根拠。「記録にないことは行っていないこと」と扱われうる |
| リスク管理 | 事故・虐待・訴訟等の際に、支援の適切性を示す証拠になる。リスクの兆候の記録は組織的対応の起点 |
記録の文体(叙述体・要約体・説明体)
ソーシャルワーク記録で用いられる代表的な文体。用途で使い分ける。
| 文体 | 内容 | 向く用途 |
|---|---|---|
| 叙述体 | 起きたこと・やりとりを時系列でそのまま記述する。逐語に近い「過程叙述体」と要点を絞った「圧縮叙述体」がある | 経過記録、重要な面接場面、リスク場面の詳細な記録 |
| 要約体 | 情報を項目ごとに整理・要約して記述する | アセスメント様式、サマリー、他機関への情報提供 |
| 説明体 | 事実に支援者の解釈・分析を加えて説明する | 見立ての記録、支援方針の根拠の説明 |
- 日々の経過記録は圧縮叙述体が基本。重要な意思決定の場面・リスク場面は、やりとりが再現できる程度に詳しく残す。
- 説明体を使うときは、どこまでが事実でどこからが解釈かが読み手に分かる書き方をする(後述)。
SOAP等の記録様式
医療・介護分野で広く使われるSOAPは、事実と解釈の区別を構造的に担保できる枠組みであり、相談支援の記録にも援用できる。
| 項目 | 内容 | 記載例 |
|---|---|---|
| S (Subjective) | 主観的情報。本人・家族の発言 | 「夜は2〜3時間しか眠れない」と本人 |
| O (Objective) | 客観的情報。観察された事実 | 面接中にあくびが頻回。前回より応答に時間がかかる |
| A (Assessment) | 見立て。SとOから導かれる解釈 | 不眠が続き疲労が蓄積している可能性。服薬状況の確認が必要 |
| P (Plan) | 計画。次に行うこと | 次回訪問時に服薬状況を確認。本人了解のうえ主治医に情報提供を検討 |
- SOAPにこだわらなくても、「本人の言葉/観察した事実/見立て/次の行動」の4要素が区別されていれば記録の骨格は成立する。事業所の記録様式に応じて援用する。
事実と解釈の区別
記録の信頼性は、事実と解釈の区別で決まる。
| 悪い例(混在) | 良い例(区別) |
|---|---|
| 「本人は無気力で意欲がない」 | 「『何もしたくない』と発言。日中は臥床して過ごすことが多いと母から聴取。(見立て)抑うつ状態の可能性があり、受診状況を確認する」 |
| 「母は本人に無関心」 | 「面接中、母は本人の話題になると話を家計の話に変えることが2回あった」 |
| 「金銭管理ができていない」 | 「今月、電気料金の支払いを失念し督促状が届いたと本人。同様のことが3か月で2回」 |
- 評価語(無気力・無関心・問題行動・非協力的)をそのまま書かない。その評価の根拠となった事実を書く。事実が書かれていれば、読み手は自分で判断できる。
- 本人の言葉はかぎかっこで原文に近く残す。意向の記録は要約より原文が強い。意思決定支援の経過の証跡にもなる(→意思決定支援)。
- 伝聞は情報源を明記する(「母によると」「相談員が◯◯事業所から聴取」)。本人の発言か、家族の発言か、支援者の観察かが区別できない記録は使えない。
開示請求を前提とした書き方
記録は本人・家族から開示請求されうる。本人が読む前提で書くことが、結果的に記録の質を上げる。
- 読まれて困る表現──決めつけ・陰性感情(「またか」「手がかかる」)・揶揄──は書かない。書きたくなった感情は記録ではなくスーパービジョンで扱う。
- 否定的な事実を書かないという意味ではない。リスクや課題は事実として淡々と書く。事実の記載は開示されても説明できる。
- 家族間で利害が対立するケース(本人と家族の意向の相違等)では、誰の発言かの明記がいっそう重要になる。
個人情報の扱い
- 記録の保管(施錠・アクセス制限)、持ち出しのルール、廃棄の方法を事業所の規程に従って徹底する。訪問時に持ち歩く記録は最小限にする。
- 関係機関への情報提供は、本人の同意の範囲で行う。同意の内容(誰に・何を・何のために)自体を記録に残す。
- メール・FAX・チャットツールでの情報共有は誤送信リスクを踏まえ、事業所のルールに従う。
記録は「書かれたことがすべて」として扱われる
実地指導・監査、事故や虐待対応の検証では、記録が支援の唯一の証跡になる。丁寧に面接していても、記録がなければ行っていないと同じ扱いを受けうる。面接・電話・関係機関とのやりとりは、その日のうちの記録を原則にする。
相談支援での活用
- モニタリング記録: 面接終盤の要約(→応答技法)をそのまま骨子にすると、本人と認識合わせした内容が記録になる。
- 計画への接続: 記録に残した本人の言葉は、サービス等利用計画の「本人の希望する生活」欄の素材になる。定型文化を防ぐ最良の材料は面接記録の中にある。
- 有効だった配慮の記録: 面接で見つけたコミュニケーション上の配慮は記録して引き継ぐ(→障害特性に応じた面接の配慮)。
相談支援専門員の視点
- 記録の時間は業務時間として確保する。件数に追われて記録が翌日以降にずれると、記憶の劣化で事実の精度が落ち、リスク場面で組織を守れない。
- 新任者の記録は「評価語だらけ」になりがち。事業所内で記録の読み合わせを行い、「その評価の根拠の事実は何か」を問い合う文化を作ると、記録と同時にアセスメントの質も上がる。
- 記録は本人のための資産でもある。過去の記録が、本人の歩みと意向の変遷を語る唯一の資料になることがある。