ダークモード
基盤となる理論・視点
アセスメント・計画作成の「ものの見方」を支える主要理論を整理する。個別の援助技法は実践モデル・アプローチ、面接の進め方は面接技術・コミュニケーションを参照。
システム理論・生態学的(エコロジカル)視点
- 人を孤立した個としてではなく、家族・職場・地域・制度といったシステムの中で相互に影響し合う存在として捉える。
- 生態学的視点は「人と環境の交互作用(transaction)」に注目する。生活問題は「本人の欠陥」でも「環境の欠陥」でもなく、両者の接点の不適合として現れる。
- したがって介入の標的は、本人への働きかけ・環境への働きかけ・接点の調整のいずれもあり得る。この発想が特定の対象・方法に限定されないジェネラリスト・ソーシャルワークの基盤である。
計画相談では: 「本人が通所を続けられない」を本人の問題にせず、事業所側の受け入れ体制・通所手段・家族状況を含めた交互作用として整理する。ニーズ整理と社会資源の選定の枠組みになる。
バイオ・サイコ・ソーシャルモデル
人の生活課題を**生物的(Bio)・心理的(Psycho)・社会的(Social)**の3側面から統合的に捉えるモデル。医療は生物面、心理職は心理面に強いのに対し、3側面を貫いて全体像を描くのがソーシャルワーカーの持ち味である。
| 側面 | 見る内容 | アセスメントでの例 |
|---|---|---|
| バイオ(生物) | 疾患・障害特性・服薬・体調・ADL | 診断名、発作の頻度、服薬状況、睡眠、体力 |
| サイコ(心理) | 感情・認知・意欲・自己像・トラウマ | 障害受容の状態、不安・抑うつ、成功体験、支援への構え |
| ソーシャル(社会) | 家族・住まい・経済・所属・制度利用 | 家族の介護力、収入と債務、友人関係、利用中のサービス |
計画相談では: アセスメント項目の抜け漏れチェックに使える。「サービスの希望」だけ聞いて心理面・家族面が空白の計画になっていないかを点検する。
ストレングス視点
問題・欠陥ではなく、本人と環境が持つ**強み(ストレングス)**に焦点を当てる視点。ラップ(C. A. Rapp)らによる精神障害領域のストレングスモデルが代表的。
| 観点 | 問題志向 | ストレングス視点 |
|---|---|---|
| 注目する点 | できないこと・症状・リスク | できること・願望・資源 |
| 本人の位置づけ | 治療・支援の対象 | 自分の人生の主体・専門家 |
| 目標の起点 | 問題の解消 | 本人の望む暮らし |
| 環境の見方 | 障壁・リスク要因 | 資源のオアシス(活用できる場・人) |
ストレングスは本人側(性格・才能・技能・関心・経験)と環境側(人間関係・地域の場・インフォーマル資源)の両方で拾う。
計画相談では: サービス等利用計画の「本人の希望する生活」欄を空欄・定型文にしない根拠となる視点。ニーズを「〜できない」でなく「〜したい」から書き起こす。
エンパワメント
- 障害・貧困・差別などにより力を奪われた状態(パワーレスネス)にある人が、本来持っている力を取り戻し、生活と人生への統制を回復する過程を支えること。
- 「力をつけてあげる」のではなく、力の発揮を妨げている個人的・対人的・社会構造的な障壁を減らすことが支援の中心。ピアサポート・セルフヘルプグループはエンパワメントの重要な資源である。
計画相談では: 支援者が段取りをすべて肩代わりしていないかの点検軸。本人が選ぶ・決める・交渉する機会を計画の中に意図的に残す。
リカバリー
精神障害領域を中心に広がった概念で、2つの位相を区別して理解する。
| 概念 | 内容 |
|---|---|
| クリニカル・リカバリー | 症状の軽減・機能の回復という医学的な回復 |
| パーソナル・リカバリー | 症状や障害があっても、自分にとって意味のある人生・役割・希望を取り戻していく主観的な過程 |
パーソナル・リカバリーは直線的に進まず、本人固有の道筋をたどる。支援者の役割は回復を「させる」ことではなく、希望を支え同行することにある。
計画相談では: 精神障害のケースで「症状が安定したら次のステップ」という発想に偏らないための視点。症状が残っていても働く・暮らす選択肢を計画に載せてよい。地域移行支援・地域定着支援の実践思想でもある。
ICF(国際生活機能分類)
WHOが2001年に採択した、人の生活機能と障害を捉える共通枠組み。「医学モデルか社会モデルか」の二者択一ではなく、両者を統合した相互作用モデルである点が重要。
健康状態(病気・変調・けが等)
↕
┌───────────────────────────┐
│ 生活機能 │
│ 心身機能・身体構造 ↔ 活動 ↔ 参加 │
└───────────────────────────┘
↕
環境因子(物的・人的・制度的) ・ 個人因子(年齢・生活歴・価値観等)| 構成要素 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 心身機能・身体構造 | 身体・精神の機能と器官 | 視力、記憶、四肢の構造 |
| 活動 | 個人による課題・行為の遂行 | 歩行、調理、金銭管理 |
| 参加 | 生活・人生場面への関わり | 就労、余暇活動、地域行事 |
| 環境因子 | 物的環境・人的環境・制度 | 住宅、家族の態度、福祉サービス |
| 個人因子 | その人固有の背景 | 年齢、性別、生活歴、価値観 |
矢印が双方向である点がポイント。環境因子は生活機能を促進も阻害もする(促進因子/阻害因子)。障害の捉え方(医学モデル・社会モデル)の詳細は障害の理解に整理する。
計画相談では: 障害支援区分認定調査・医師意見書と共通の言語であり、「参加」レベルの目標(働く・出かける・役割を持つ)を計画の上位目標に置く発想を与えてくれる。
エコマップ・ジェノグラム
| ツール | 内容 | 使いどころ |
|---|---|---|
| ジェノグラム | 三世代程度の家族関係を記号で図示した家族関係図 | 家族構成・キーパーソン・世帯の歴史の把握。ヤングケアラー、8050問題の可視化 |
| エコマップ | 本人・家族と社会資源(機関・知人・地域)のつながりと関係の質を図示 | 支援ネットワークの過不足の把握。関係が薄い・対立している資源の発見 |
- 線の太さ・種類で関係の強弱やストレス関係を表現するのが一般的。アセスメント時点の図として日付を入れ、モニタリング時に更新すると変化が見える。
- 担当者会議の資料としても有効。文章のアセスメント要約より関係者間で共有しやすい。
理論は「レンズ」として使う
どの理論も現実を切り取るレンズであり、単独で万能ではない。生態学的視点で全体を眺め、BPSで漏れを点検し、ストレングスで目標の向きを決め、ICFで関係者と共通言語をつくる——というように重ねて使うのが実務的である。
相談支援専門員の視点
- アセスメント様式の項目は、実はこれらの理論(BPS・ICF・ストレングス)の反映である。様式の背後にある理論を知ると、聞き取りの質が変わる。
- 医療機関との連携ではICF・BPSの用語が通じやすく、精神科領域ではリカバリー・ストレングスが共通言語になる。相手によってレンズを切り替える。
- 計画の「総合的な援助の方針」が書けないときは、エコマップを描いてみると資源の偏り・空白が見え、方針の言語化につながる。
- 理論の使い分けの先にある具体的な援助方法は実践モデル・アプローチへ。