ダークモード
システム理論・生態学的視点
人を孤立した個としてではなく、家族・職場・地域・制度といったシステムの網の目の中で生きる存在として捉える視点。相談支援における「本人だけを見ない」「環境も介入対象にする」という発想の理論的な土台であり、サービス等利用計画のニーズ整理と社会資源選定の枠組みそのものである。
一般システム理論からソーシャルワークへ
- もとは生物学者ベルタランフィ(L. von Bertalanffy)の一般システム理論に由来する。「全体は部分の総和以上のものであり、要素同士は相互に影響し合う」という考え方を、ソーシャルワークが人と社会の理解に取り入れた。
- 1970年代、伝統的な「ケースワーク・グループワーク・コミュニティワーク」という方法別の分立を乗り越え、対象を一つのまとまり(システム)として統合的に捉える理論として広がった。
- システムには階層がある。個人は家族システムの一部であり、家族は地域システムの一部である。ある層への働きかけは他の層に波及する(例: 家族の負担軽減が本人の生活の安定につながる)。
ピンカスとミナハンの4つのサブシステム
ピンカス(A. Pincus)とミナハン(A. Minahan)は、援助の場面に登場するシステムを4つに整理した。「誰に働きかけるのか」を分解して考える道具になる。
| システム | 内容 | 相談支援での例 |
|---|---|---|
| チェンジ・エージェント・システム | 変化を起こす援助者とその所属機関 | 相談支援専門員と相談支援事業所 |
| クライエント・システム | 援助を求め、契約関係にある人・家族・集団 | 本人、同居家族 |
| ターゲット・システム | 目標達成のために変化させる必要がある相手 | 受け入れを渋る事業所、制度の運用、家族の認識 |
| アクション・システム | 変化を起こすために協働する人々 | サービス事業所、医療機関、行政、インフォーマルな支援者 |
クライエントとターゲットは一致するとは限らない点がこの整理の要点である。本人は困っていないが環境側を変える必要があるケース、家族が変化の標的になるケースを、混乱せずに設計できる。
生活モデル(エコロジカル・アプローチ)
ジャーメイン(C. B. Germain)とギッターマン(A. Gitterman)は、生態学の発想をソーシャルワークに導入し**生活モデル(life model)**を提唱した。
- 生活問題(生活ストレッサー)は、①人生上の移行(進学・就職・親の高齢化等)、②環境からの圧力、③対人関係の不調、の絡み合いとして生じると捉える。
- 病理の治療ではなく、生活そのものへの適応と対処(コーピング)を支えることが援助の目的になる。
交互作用と適合(fit)
| 概念 | 内容 |
|---|---|
| 交互作用(transaction) | 人と環境が一方向でなく互いに影響し合い、影響し合った結果がさらに次の関係を変えていく円環的な関係 |
| 適合(fit) | 本人のニーズ・力と、環境の要求・資源との釣り合い。適合が良ければ成長・安定、不適合が続けばストレスと生活問題が生じる |
生活問題は「本人の欠陥」でも「環境の欠陥」でもなく、両者の接点の不適合として現れる。したがって介入点は3つある。
- 本人側への働きかけ(対処力を高める・スキルを補う)
- 環境側への働きかけ(受け入れ体制の調整・資源の開発)
- 接点の調整(マッチングの変更・橋渡し・関係の修復)
ジェネラリスト実践との関係
- 介入の標的・方法を特定しないこの発想は、対象別・方法別に分かれていたソーシャルワークを統合したジェネラリスト・ソーシャルワークの基盤理論である。
- ジェネラリストは「何でも屋」ではなく、ミクロ(個人・家族)・メゾ(集団・組織)・マクロ(地域・制度)を一つの枠組みで見立て、必要な層に介入を選択できる専門性を指す。詳細はミクロ・メゾ・マクロ実践を参照。
- 相談支援専門員の業務は、個別の計画作成(ミクロ)から担当者会議・事業所との調整(メゾ)、(自立支援)協議会での資源開発の提案(マクロ)まで連続しており、まさにジェネラリスト実践の構造を持つ。
相談支援での活用
- アセスメント: 「本人が通所を続けられない」を本人の問題にせず、事業所側の受け入れ体制・通所手段・家族状況を含む交互作用として整理する。原因の置き場所が変わると、支援の選択肢が増える。
- ニーズ整理: 課題を「本人側/環境側/接点」に仕分けてみると、サービス投入以外の介入(環境調整・関係修復)が見えてくる。
- 担当者会議: 4つのシステムの整理は、会議の出席者それぞれが「アクション・システムとして何を担うか」を明確にする設計図になる。
- 見立ての言語化: エコマップはシステム理論・生態学的視点を1枚の図にする実務ツールである。
「誰の問題か」ではなく「どこの不適合か」
支援がこじれるときは、たいてい問題が誰かの欠陥として語られている(「本人のやる気がない」「家族が非協力的」「事業所が硬い」)。生態学的視点は責任の所在探しを一旦やめて、接点の不適合として記述し直す技術である。記述が変われば、関係者が同じ方向を向きやすくなる。
相談支援専門員の視点
- サービス等利用計画の「総合的な援助の方針」は、本人・家族・環境の交互作用の見立てを書く欄だと考えると書きやすい。サービス名の羅列は方針ではない。
- 環境側への働きかけ(事業所との調整・受け入れ条件の交渉)は、本人支援と同格の介入である。「調整業務」を雑務と捉えず、生態学的介入として計画に位置づける。
- 一つの層で行き詰まったら層を変える。個別支援で動かない課題は、協議会への課題提起(メゾ・マクロ)に接続するのが相談支援専門員の職責である。